陽だまりに似ている 4

  

 ああ、だからこんなにも愛しいのだろう。

 


 何が心をなでたのかは今じゃわからない。例えば、迷いなく自分であるための選択だとか、刀を握る意味だとか、守りたいものを守りたいように守れるそんな場所に立つことが、何に繋がっていくのかを垣間見たような。
 優しさに見送られた背中が疼く。
 湧き上がった気持ちがどんなものであるのかはきっとずっと以前から知っていた筈だ。それに気づくと途端に気持ちは急いてきて、ふわりと揺れた羽織の裾が視界を掠めると知らず、走り出した。きっと言葉じゃ言い表せれない。存在意義だとか自分の立ち位置だとか考え始めたら止まらない。そうじゃない、そうじゃなくて。

 ― 隊長の優しさに惹かれてやまないのは僕だけではないという事です

 ただ、ありがとうとそれだけが強く強く。
 視界の先に硬質な建物が聳え立つ。雲間から差し込む陽光に縁取られて青空を切り取る。見上げると十の文字。この背に背負うただひとつの、

 「ひ、日番谷隊長!待ってください、まだ、」

 古めかしさを残した木彫りの扉を潜り抜ける。何人かの十番隊員とすれ違った。かけられた声にはかすかに微笑んで、それでも走り出した足は止まらない。軋む床を蹴り上げて、戸惑う隊員の脇をすり抜けて、この先の十番隊隊首室へ。

 ギィ

ユビサキが押しなれた扉のぬくもりに触れると懐かしさで眩暈がした。
明け渡された扉のその奥の奥。ただ、暖かな光が

 


 「日番谷隊長、隊長就任記念日おめでとうございます!」

 

 言葉に灯る。

 

 「ま、松本?」
 「あぁ、よかった。間に合わないかと思いました。」
 「お前は、一体何やって・・」
 「いいから、隊長、こちらにいらして下さい。」

 促されて隣室に押しやられた。鼻をくすぐる甘い香り。低い丸テーブルに置かれたそれの隣には真っ白な十の羽織。

 「ケーキ類は新人の女性隊員達が今朝焼き上げたばかりです。午前中の隊長の仕事は僭越ながら、私と三席が。」

 ふわりと金糸の髪を揺らして笑う乱菊の後ろでやわらかく会釈をする男。

 「隊長の新しい羽織は、私含め隊員たちの手で縫わせてもらいました。」

 他の者は、それらの準備が整うまで隊長の足止めを。
 馬鹿やろう。とつぶやきは胸の奥にしまいこんだ。からりと笑った乱菊の傍にいつのまにか隊員が集まりだす。稽古にいそしんでいた彼らが、眩しそうに水面を見つめていた彼らがそれぞれに日番谷に言葉をかける。ふいに乱菊に覚えていますか、と問われた。

 「覚えてますか、隊長が就任した日のこと」
 「さぁな。」
 「私は覚えてます。」
 「今でも、昨日のことみたいに。」

 あの日私は、もうずっとこの人に付いていくんだろうって思ったんです。
 パァンと小気味のいい音が重なり合って鳴らされた。何処からともなく取り出されたクラッカーの音に耳をふさぎながら、お前らなぁ、八つ当たりみたいに恥ずかしさを押し隠して手当たり次第に蹴りをくれてやる。甘い香りに包まれていつの間にか手渡されたケーキにかぶりついて、卓上の書類に目を光らせながら、汚ねぇ字だな。ぶっきらぼうにつぶやいて。苦笑をにじませた隊員たちにこっちだって呆れたため息で返してやる。

 

ずっとだ。

 

不意に誓いの言葉みたいに呟いた。心の中で、強く強く。ずっとだ。この先、これから先、ずっとずっと手放さない。手放せそうもない。

 


この背に背負う、十を。

陽だまりに似た、暖かい人たちを。


 

 

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