名を呼ぶ。
 

 さっきからやたら世界が朱に染まって見えるのは、何も地に沈む緋の光に照らされただけのものではないらしい。鼻はとっくに麻痺している。軋む骨はそれと知らずとも限界を訴えていたし、なにより、もう仲間の声が聞こえない。聴覚がイカレたせいだ。

 学生時代からの実践と死神になったそれなりの時間を足しても、こんな長丁場の戦を知らなかったから。


そう、自分をだまし続けることにも限界があった。

 それでも、俺は刀を振り続ける、血潮を駆け抜ける、戦うことを放棄しない。だだ広い大地に染まる朱の色の存在も、たった一人地を這う恐ろしさも、本当は本当はとっくに、どこかで知っているのに。

 

― ・・・・お前が犬死したいんなら、私は別にかまわないがね。

 

それでも、どうか俺から刀を奪い取らないで。戦うことをやめさせないで。仲間がいるんだ。俺の助けを待っているやつらがいるんだ。もう少しで助けられるんだ。そのはずなんだ。まだ、動ける。まだ、剣を握れる。まだ、戦える。
俺は、

 

― お前が死んでも、死んだ仲間は戻ってこないよ


肌を刺す、冷たさの残る風が吹く。晩冬の明け方に見た夢の中で、囚われた過去に堕ち切ることもできず闇の中。


― それでもお前がお前の意思で戦うことをやめないというのなら、それも面白いだろう。ひとつ、



「私の名を呼んでみるか、」

 

 

 

初雪の降る静かな朝のことだった。

 


―――――――――

<NOVEL>