最後の約束

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 不意に、視界が歪むのを日番谷は感じた。

 

 走り続けた闇の、往く道の先に、あるはずのない光がある。その時、眩しさに目を細める日番谷の前に、ばさりと翻る隊長衣が見えた。白い布地に、しっかりと染められた『十』が日番谷の真横を通り過ぎて、目の前を行く。

 

 

―隊長ッ!!!

 

 

 声はでなかった。

 

 伸ばした手をすり抜けていく大きな背中がただ真っ直ぐに前を向いて走っていた。

 その背を追い、日番谷は叫ぶ。その声に背中が振り返ることはなくとも、日番谷は手を伸ばす。

 

 

―どうして、一人で行ってしまったんだ。最後まで戦うと誓ったのに。どうして、貴方はたった一人で逝ってしまったんだ。こんなのは、あんまりだ。あんまりだよ、隊長。俺は、あんただけは、失いたくないと思っていたのに何故俺を最後まで戦わせてくれなかったんだ。何故一緒にいかせてくれなかったんだ。

 

 

 

 

 手には血塗られた斬魄刀を握りしめていて、所々裂けた羽織から血を滴らせて、隊長は走り続けていた。やがて、振り返った顔が困ったように笑う。己を見ているのではない。隊長の視線は、自分という存在をすり抜けて、はるか後方を見ている。隊長が見ている視線の先を、日番谷は驚くように振り返った。

 

 

 

 

――有翼の獅子。

 

 

 

 

 血に濡れた牙をむき出しにした、件の虚の姿がそこにあった。

 十番隊長は、たった一人でシャルベーシャと向かい合っていた。

 

 

 

 こんな風景は、知らない。

 こんな風景は俺は、知らない。

 

 

 

 

「・・・全く、忌々しい。空紋を閉じられたと思ったら、まさか君に、追いつかれるとは。」

『・・・お前だけは生かしておくな、と言われている。』

「・・・・・・・・・・そうか。

 僕は、藍染という男を侮っていたようだな。空紋を閉じるために力を使い果たしたこの期を待っていたのか。どうりで、君の攻撃には最後の最後で自制が働いているわけだ。」

『・・・・・・お前の”死”をあの方は欲している』

「もう刀を解放する力もない」

『幸福な眠りの中で』

「せいぜい・・・、」

 

 

『消えるがいい』

「いい夢を見させてくれよ。」

 

 

 隊長が斬魄刀を構えた瞬間、跳ねた獅子の体を止めるように、日番谷は駆け出していた。獅子と隊長の体の間に割り込む。そのとき、ゆっくりと伏せた隊長の目と合った気がしたのは、気のせいだったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二度と聞くはずのなかった『声』を、日番谷は聞いた。