莫逆の友 

序章 決意

 

「お願いがあります。」

 

 少年の、幼い体躯から発せられるには、あまりにも意志のある強い声でそう言われ、老人は顔を上げた。鮮やかな青に昇る日が、少年の背後でその光を散らしていた。

 少年との出会いはすでに数年前だ。あの頃。彼はもっと、幼さのある表情でここにいた事を、不意に老人は思い出した。濡れ縁に腰掛けて、幼い妹たちに手土産の甘納豆を食べさせていた。流魂街の祖母が持たせてくれたものだという。彼の持つ白銀の髪を珍しがる妹たちに、嫌なそぶりを見せることもなく、膝の上に乗せて、好きに触らせていた。あの日も、こんな鮮やかな青空が広がっていた気がする。胸に刻まれた幸福な風景。あの時、少年の隣には、一人の男の姿があった。

 

「俺を日番谷家の養子に入れてください。」

 

 一体何の願いかと戸惑っていた老人の前で少年は迷いのない凛とした声で告げた。少年の言葉に、老人は息を詰めた。咄嗟に右手で口を覆うと、たまらず老人は、少年の前でおおぅ、おぅ、と声をあげて 、泣いた。あの日の風景を、あれから一度も、老人は忘れた事がなかった。

 

 人目も憚らず突っ伏して号泣する老人の前で、少年はそっと顔を上げた。襖の影から少年と老人を心配そうに見ている妹たちの姿が見えた。手を伸ばせば、弾かれたかのように二人は駆け寄ってくる。二人の、小さな体を抱きかかえ、少年の、濡れる翡翠の双眸が見ていたものは一体なんであったか。太くはない、まだ子供と表現するに相応しい少年の腕に抱きかかえられ、妹たちは声をあげて泣いた。

「…愚かだと、思わないでほしい。」

少年の頬を一筋の涙がつたった。

 

 

「きっと、ここを守るから。」

 

 

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