最後の約束

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なぁ、勘違いしないでくれよ。

 

 お前らのこと信頼してないから、連れて行けねぇとか、足手まといになるからダメだとかそんなことを言ったんじゃない。

 大事じゃねぇからとか、どうでもいいからとか、そんなことは思ってない。

 むしろそれは逆で、お前らがいたから俺はここまで歩いて来れた。俺の誇りはお前らそのもので、これから先だってそれはずっと変わらない。

 

 信じられるか。

 

 戦場で、お前たちほど頼れるやつはいねぇんだよ。だから、理解してもらおうなんて虫のいいことは思ってねぇ。身勝手な奴だと罵ってくれてかまわない。

 

 

 それでも、どうしようもないものがあった。

 立ち止まって、振り返らないといけなかった。

 そうしないと、同じ場所に立っていられなかった。

 

 つまらない意地だと笑われたってよかった。

 

 

 松本。

 いつかお前が俺に聞いたこと覚えてるか?今更お前に話したところで何もはじまらねぇことくらいわかってる。聡いお前のことだから本当のところは全部わかっちまうんだろう。本当だったら、こんなことはお前にだって言えねぇ。それなのに今、お前の名前を呼んでることを許してくれよ。

 

 

 なぁ、松本。

 俺はあの人と同じ場所に立ちたかったのさ。

 

 

 刀を捧げてきたんだ。

 命を懸けてきたんだ。

 

 心を、置いてきたんだ。

 

 

 これが俺にできるあの人への唯一の手向けだったのさ。

 

 

 会った時間の長さだとか、回数だとか、そんなものは関係ねぇよ。

 生きてきた時間。過ごしてきた日常。

 そんなもの忘れちまうくらい俺はあの人を好きになったんだ。それだけで命を預けるのに足るのさ。誰にも嘘だなんて言わせねぇ。俺はあの戦場で死んだってかまわなかったんだ。

 

 でも、生きろ、とあの人が言った。

 

 

 生きろ、と言った。

 

 

 だからさ、あの人を一人で逝かせたことを俺は悔いてる。話したいことはいっぱいあった。聞きたいことも。

 

 

今はただあの人に、

 

会いたい、

会いたい、

 

 

会いたい、

 

無性に。

 

 

 

 

 

 

 静寂。

 

 

 日番谷は今、一匹の虚の前で、立ち止まった。不思議と心は凪いでいた。憎しみも恐れもなかった。迷いはなかった。合間見えた虚の姿に、嬉しくすらあった。

 

 もし、再び会う事があるなら、それは奇跡と呼ぶに値する。そう思い続けた存在が今確かに、ここにいた。

 ここにいた。

 

 刹那、交差する虚との視線に日番谷は、笑う。

 虚は瞳に殺意だけを宿し、ひと声、天に向かって吠えたけた。

「ああ、そうだな」

 劈く咆哮に空気が震えている。日番谷は剣を握り締め、ゆるり、と告げた。

 

「今度こそ、終わりにしようぜ」

 

 あの日、つけれなかった決着を。

 

 虚がまるで、日番谷に答えるように地を蹴る。それを見て日番谷は自らも獣のように鳴いた。

 

「卍解」

―大紅蓮氷輪丸。

 

 

 日番谷は舞う。虚の姿に吸い込まれていくように岩肌をかける。まるで巨大な虎のように吠え猛る虚に刃を振り下ろす瞬間、刹那虚の瞳と、視線が合った。琥珀色に染まったその双眸が、ゆっくりと闇の色に染まる時、日番谷はまるで眠りに落ちるように自らゆっくり、とゆっくりと目を閉じた。

 

 瞼の裏に、あの人の姿が蘇る。

 浄罪と謳われた振り下ろされた刃は、懺悔に似ていた。