最後の約束

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 頬に、何か暖かい感触が触れた。

 この暖かさを日番谷は知っていたけれど、それがなんであったのかどうしても思い出せない。閉じた瞼は開かなくて、やけに眩しい光だけが、この世界で感じる全てだ。

 

 

 

―泣いてはいけないよ。

 

 

 

 

 やがて声がして、日番谷は呻いた。

 その声が誰かを知っていたからだ。目を開けたいのに。姿をみたいのに。瞼が開かない。自分の頬を暖めるこのぬくもりに触れるように、そっと片頬に手を伸ばす。

 何もないはずの場所に、ただ暖かい熱がある。

 

 この熱の正体を、

 日番谷はもう思い出している。

 

 

 

―・・・泣いて、いません。

 

 

 声が言葉として空気を震わせたか、それはわからなかった。答えた言葉は本当で、睫を濡らすものなど、何も溢れてなどいない。

 

 

―君は、泣いてる。

 

 

 風がふわりと訪れて、それは日にさらされた草木の匂いがする。柔らかく肌をなで、いつまでも優しく纏わり続ける。

 

 

―・・・泣き方など、とうに、忘れてしまったんですよ、俺は。

 

 

 いっそ、それができたらよかった。そうしたら、きっとこんなに苦しくなどなかった。親友が死んだときも。貴方が死んだときも。泣き喚いて、一緒にいくと言えたら、もっとずっと楽だった。

 

 

―いいや。君は、ずっとずっと泣いていたよ。初めてあったときも、今も。言ったろ?僕には”わかる”、と。

―・・・・・・・。

 

 

 

 

―君の心は、ずっと泣いている。

 

 

 

 

 

 この頬にある熱に。その存在に。

 支えられてここまで来た。

 

 

 

 

 迷うときは、

 言葉を思い出した。

 

 

 

 

 そうすれば、耐えることができる。

 大切なものを失ったこの世界で。ひとり。

 

 

 

―もう、泣かなくてもいい。君は一人じゃない。今の君は、・・・もうそれを知ってるだろう?

 

 

 

 目頭を熱い熱が走り、それは目の縁を辿り、やがて頬を零れた。それは後から後から目から溢れ出たけれど、それが何なのか、確かめる術はなかった。頬にあったぬくもりが揺れて、頬に滴る雫をすくいとる。もう、止まらなかった。

 

 

 

―えらかったな。

 

 

 

 触れていたぬくもりが離れていく。それは紛れもなく、あの日、一人になるな、と言って、この手を握ったあの手の暖かさだ。

 行かないでくれ、と。

 伸ばした手は何もない空をつかむ。瞼は開かない。言葉も出ない。ただ世界を覆う光だけが、白さを増していく。

 

 

 やがて、男の最後の声が、

 生まれて消えることのない風のように、

 

 

 耳を打つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

―・・冬獅郎。

生き延びて、幸せになれ。

 

 

僕が君に望むのは、それだけだよ、

 

 

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