最後の約束

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「言われた通り近隣の村人には入山を硬く禁止しておきました。見回りの配置も滞りなく。四番隊卯の花隊長から、同行者の申し入れがありましたが、いかが致しましょうか。」

「断ってくれ。必要ない。」

「・・・・は、しかし。」

「断わってくれ。」

「・・・はい。」

 

 白道門へ続く回廊に頭をたれた十番隊員たちが連なって並んでいる脇を早足ですり抜けていく日番谷の少し後ろで三席は目の前の小さな子供が背負った十の文字に視線を落としてその姿を追った。たった一人この子供だけがこの身を捧げるものの全てと誓ってこの三席の場所まで走りのぼりつめてきた。同じ思いに焦がれて集った仲間達を三席は幾人も知っている。

 

 やがて、扉を抜けて三席と日番谷は十番隊の集う白道門の前に歩き出した。日番谷の姿が見えた瞬間、その場所に集う死神たちの中から自然と歓喜のような歓声が沸き起こりそうになった時、力強い一人の女の声が、それを制す。

 

「整列!」

 

 吹き抜ける風に隊旗が翻る。日番谷を取り囲むように死覇装をきた死神たちが立ち並ぶ。一際凛とした面持ちの女だけが一人、日番谷の前に立つ。その左腕に、確かに十の副官章をつけて。

 日番谷は目の前にたった女の顔を見つめて、それから振り返った。隊列を組んだ十番隊員の面々を見渡す。その中に今朝確かに見送りを禁じた幾人かの席官の姿を見つけ、ため息よりも諦めた苦笑がその表情に浮かんだ。

「おまえらにも。」

 その隊員たちにしっかりと視線を合わせ、そして日番谷は振り返る。

「おまえにも。」

 振り返った先に日番谷の前で揺るぎなく立つ女の姿は誰の目にも美しく映っただろう。

 

「見送りは禁じた筈だぞ、松本。」

 

 名を呼ばれた乱菊の顔が笑ったかどうか、定かではない。しかし確かにその気配がふわりと柔らかくなり、穏やかな声で当たり前のように告げた。

「ええ。命令違反しました。」

「おまえらなぁ・・・。」

「これくらいいいでしょ。」

「これくらいって問題じゃねぇよ。隊長の言うこときけねぇのか。」

「隊長こそ、私達の言うこと聞いてくれないくせに。」

「・・・あのなぁ。」

「ここまでですよ。」

「・・え?」

 

吹き抜ける風が日番谷の羽織る羽織をすくう。

 

 「隊長が一人で行くって決めたから、私達ができるのはもうここまでなんですよ。」

「・・・」

「ここは譲れません。本当なら、」

「・・・松本。」

「隊長が何言ったって、何をしたって、ついて行きたいって気持ちを抑えてみんなここに立ってるんだから。ここはもう譲れません。」

 

 日番谷は乱菊の瞳の奥をじっと見つめた。そしてもう一度振り返る。隊員たちの瞳の奥に乱菊と同じものが確かに宿っている。

 

「・・・・・俺を、一人で送り出してくれるおまえたちに、感謝する。」

 

 乱菊は今度こそ、微笑んで頷いた。腰に携えた斬魄刀を手に持った。日番谷はその動作に視線を送りながら、ゆっくりと歩き出す。その後ろで立ち並んだ隊員たちが乱菊と同じように斬魄刀を手にとってその胸の前に翳す。日番谷は乱菊の横をすり抜けた。その瞬間。同じ声音が耳元で囁いた。

 

「ちゃんと帰ってきてくださいね。」

 

 日番谷は今度こそ前を向いて歩き出した。隊旗に背を向けて。隊員たちに背を向けて。十の羽織をたなびかせながら。

 

 

 

カシャンッ

と、日番谷の背中の向こうで幾重にも折り重なった斬魄刀の鍔の音が雨音をかきわけて鳴り響いた。その鍔の音は敬礼の意を込めて、鳴らされる一つの儀式。言葉の代わりに沢山の思いを込めて鳴り響いた沢山の死神が持つ斬魄刀の鍔の音は、白道門を越えて走り始めた日番谷の胸の奥で、消えることなく鳴り響いた。