最後の約束

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「なんや、風が落ち着きまへんなぁ。何処から流れとるんやろか。」

 

 緩やかな風の中に手を翳すと市丸の指先に絡みつくような細い細い糸が光を帯びてかすめていった。それは僅かな衝撃で容易く消えていくはかなさで、冷たさも暖かさもなくただ風の中で戯れるように目の前を通り過ぎていく。

 

(ああ、そうや。)

 

 グ、と右手を握る仕草をした。糸のようなそれは容易く光を失って散り散りとなる。

 

(こんな風に空気がざわめくんやったなぁ。大きな戦いの前ゆうんは。)

 

「風に日番谷君の霊圧が微かだが紛れている。ざわめくのはそのせいだろう。」

 市丸は声がする方へ振り返った。振り返ってそして笑った。自分の言葉を聞いていた、それ以上にこの男が言葉を返したことが市丸にはおかしかった。目の前に立つこの男にそれは無意味なものだと知っていても、顔が無意識にこの表情を形作る。藍染の前にいるときと同じように市丸は薄く笑ってみせた。

「戦いは始まってるようだね。」

彼の盲いた眼が見えない景色を追って揺れていた。

「そないに深う霊圧辿りますと、誰かに見つかりますよって。東仙隊長。」

「そんなヘマはしない。それに霊圧を辿るわずかな霊気など誰も気づきはしないだろう。日番谷君のそばには誰もいない。」

「それにしても。合同任務ゆう名目でえらい辺鄙な所に連れてこられましたなぁ。ここで何をしはったらええのん?」

「藍染隊長は質の良い魂魄を探している。」

「なんや今更な気ぃもしますな。」

「それでもあの方はご所望だ。衝撃に耐えられる魂魄を。」

「例えば、十番隊長はんのような、ゆうことですな?」

「・・・・・・彼がもし死ぬことになればその魂魄を我々が回収する。体から抜け切る前に。・・・・それから失敗作の処分。あれは放っておくと危険だ。もう何十年も我々の手の内をすり抜けて生き延びてきた。」

「例え仇討ちで死んでも浮かばれまへんなぁ。魂を僕らに奪われるんは。」

「・・・彼は生き残ると思う。感情に打ちのめされてはいないからね。」

「・・・・・・。」

「不服そうだな?市丸。日番谷君が生き延びて、我々の仲間に引き入れられるのが嫌か。」

「そんなんやあらしまへん。今更仲間や何やとおかしなっただけです。ほんまにそう思うとるんやったらとうにしてはるやろなぁと。ていのいい捨て駒が欲しかったんと、ほんまの事を口にしはってもここでは誰も聞いてまへんよ?」

「日番谷君は面白い盾にはなるだろう。」

「・・・どっちにしろ、仇討ち言わはる人もそれをかなえたろぉなんて人もどっちも甘うて好かんですわ。昔も。今も。」

 

その心は。

この心で抱くには、うるさすぎる。

 

 

「・・・・何処へ行く?市丸。」

「’任務’の内容はよう分かりました。必要にならはったらいつでも行きますよって。」

 

 

風はざわめいていた。