最後の約束

-19-

 

 

またこの場所に戻ってくるために

 

 

 碧眼の奥に、薄い雲もない静かな夜空をぎゅっと固めたような深い色が宿っている。そこは銀雪の降り積もった風景みたいに凍てついた冷たさを感じる色なのに、陽なたのような淡い光が絶えずともっている。この人が、この瞳で見てきた世界は、さぞかし暖かいんだろうと、例えば家族と過ごしてきた時間、友人と過ごしてきた時間、そんな暖かさを彼に見ていたのはもう随分と前だ。そしてそれは違わなかったのだ、とひとつひとつ見つけていくような月日をともに過ごした。

 例えば雛森と過ごしてきた幼い時間。祖母の膝の上で眠りについた日の事。友と陽が沈むまでしたかくれんぼの話、霊力を競いあった仲間。

 揺らめく瞳は不意に柔らかく笑む。思い出を語る彼は口が形作るよりも早く目が笑う。そしてそれはやがて十番隊の風景の中にみつけられるようになった。隊員達同志の語り合いを見ているときや、早朝稽古に励む十番隊の姿を見ているとき、他愛ない言葉のやりとりで、大切そうに微笑んだ。それなのに瞳は驚くほどに強い色を宿す。十番隊という存在にあの人が傾けていった熱情。それに魅せられていったのは十番隊に集った隊員だけではないのかもしれない。今だから、知る。柔らかな光を閉ざしてしまわないために、ひとひらのぬくもりをなくしてしまわないために、彼が失っていったもの。

 

 

―頼む松本。

 戦いに行かせてくれ。

 

 

「副隊長っ」

 

 忙しげに回廊を走る隊員の足音が主のいない執務室の前で止まるのと同時に張り詰めた声は扉越しに乱菊を呼んだ。確認の有無はなしに開かれる扉に乱菊は振り返らずに、佇んでいる。乱菊の眼前には、窓越しに遠く空が広がる。昨日の雨が嘘のような青空が窓辺の向こうに広がっている。

 

「副隊長。たった今、流魂街地区紅峰より通信が、」

「・・・ええ。わかってるわ。」

「乱菊さん?」

「わかってるわ。」

 

 遠い風景に思えた。雲と見間違えようもない。晴天の空を、日番谷の白い龍が立ち昇った。

 

 

一閃。

 

 

 白々と西の空が光を放った瞬間、乱菊は静かに目を伏せた。

 

―また、この場所に戻ってくるために。

 頼む、松本。

 戦いに行かせてくれ。

 

 頼む。

 

 

 

ねぇ、隊長。

 

本当は

もうずっと前から。

 

 

ずっとずっとずっと前から。

 

 

泣きたくて。

泣きたくて。

泣きたくて。

 

たまらなかったのね。

 

 

 

 

 

 

 

 

そうでしょう?