最後の約束

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 隊員の声も届かない誰もいない個室で日番谷は十番隊員が手渡した真新しい、黒を纏う。光にも、何色にも染まらない全てを内包する、黒。死覇装に初めて袖を通した時の、もう、何処にも戻れなくなりそうな、突き進まなければいけないような、真冬に降る雪の冷たさのような、この心にたてた覚悟を不意に日番谷は思い出す。これは、最後の戦い。自分自身の。

 

―・・・・お前は、

 

 不意に頭の中でチリン、と鈴の音が鳴るように声がした。日番谷は呼びかけるように目を閉じる。もう一度鳴る。鈴の音のような声が、

 

―愚かだね。

 

と、告げた。

 

(あぁ、そうだな。氷輪丸。俺もそう思う。)

 

―彼の人の仇討ちのつもりか、

 

(そんなんじゃねぇよ。そんなに俺を担がないでくれ。)

 

―お前は、死にに行くつもりか。

 

(・・・・)

 

―ひとりで戦えると?

 

 日番谷は窓辺に歩み寄ってそのガラス越しに十番隊舎を見下ろした。気づいたらあの場所にいた。一でも十三でもない。自分の求めたものはこの背に背負う、十。

 導く手があったからだ。支えてくれる友があったからだ。信頼してくれる仲間がいたからだ。死神の存在を静かに説いた彼の人。日番谷はそれを忘れない。

 

「・・・このままじゃ、約束を守れそうにねぇんだ。」

 

 それは勝手な自分の思いで、けれど、長い月日をかけようと立ち消えない思い。そんなのに誰もまきこめねぇだろう?と半身に呟けば、透き通った声が愚かだね、と同じ言葉を吐く。

 

 何を馬鹿な事を、とあの人が生きていたならばきっと笑う。力が及ばないことも、知っている。あの頃よりはまともに戦える、と言うほど、過信はしていない。それでも、この道を選ぶのは、この道しか選べないからだ。長い時間をかけてようやく辿りつく場所はやはりここ以外有り得ないからだ。何度でも、立ち返る。あの日と同じ風景に。あの日と、同じ気持ちで。あの人と交わした約束の、

 

―それが、お前の答えか。

 

「そうだ。」

 

 思えば流魂街でその存在を知ってから、傍らにはいつも氷輪丸がいた。たった一人の時も。そうでない時も。戦場で。現世で。あの戦いで。

 

―お前は愚かだが、

 

 随分と長い沈黙が訪れた後で氷輪丸は言った。これは誰も知ることのない最後の戦い。憎しみよりも、悲しみよりも深い感情で日番谷は動き出す。これ以上の我侭はもういわねぇよ、と誰に向けるわけでもない言葉を呟く。右手に握った斬魄刀の凍てつかす冷たさはいつのまにか消えて、柄の根を握る手のひらの体温がそっと斬魄刀を暖める。

 

―その愚かさを、私は嫌いではないよ。

 

 氷輪丸の最後の声が部屋中に響いて、やがて消えた。